教会を追放された元聖女の私、果実飴を作っていたのに、なぜかイケメン騎士様が溺愛してきます!
「ようこそお越しくださいました」

 長い石畳を考え事をしながら歩いていると、エレノアはいつの間にか玄関にたどり着いていた。

 広い玄関ホールの入口には、黒い執事服の中年男性が立っていた。

 流石、公爵家。品の良い執事は、流れるような動きでエレノアを室内へと招いた。

 エレノアはここまで案内してくれた門番にお辞儀をすると、今度は執事の後ろを付いて行く。

 立派な絵画やら、骨董品やらが立ち並ぶ広い廊下をこわごわと見ながら、ひたすら着いて行くと、客間らしき部屋にたどり着いた。

(迷子になりそう。これ、帰りも案内してもらえるよね?)

「エレノア様、いらっしゃいました」

 エレノアの前に立っていた執事が部屋の主に声をかける。

 エレノア、()。そんなふうに呼ばれたことは無いので、何だかくすぐったい。

「御苦労、ジョージ。下がって良いよ」

 部屋の中の主が執事にそう声をかけると、彼は部屋の中にお辞儀をして、今度はエレノアに向かってお辞儀をした。

 エレノアも慌ててお辞儀をすると、執事はにこりと微笑んで去って行った。

 その素敵な仕草に惚れ惚れしつつも、エレノアは部屋の方に向き直り、息を整える。

「失礼いたします……」

 恐る恐る部屋の中に入ると、大理石のサイドテーブルを囲むように一人用のソファーと、三人くらい座れそうな大きめのソファーがある。

「呼び出してすまないね」

 一人用のソファーに腰掛けていた男が口を開く。

 サラサラの栗色の髪と整った顔。眼鏡の奥の空色の瞳は、凛々しくて男前。

(こんなイケメンを私は知っているような?)

「ご注文ありがとうございます。果実を届けに参りました」

 そんなわけないよね、とエレノアは心の中で突っ込む。

 部屋の中のただならぬ空気に、単純に果実の注文をした訳ではないと悟ったエレノアは、ごくんとつばを呑んだ。

「こんな所まで呼び出してすまない、エレノア殿……!」

 緊張して固まっていると、最初に声をかけてきた男とは違う声が、横からした。

 大きなソファーの端に、どうやらもう一人座っていたようだ。

 エレノアはその男を見て驚いた。

「騎士……さ、ま?」

 果実飴を連日買いに来ていたイケメン騎士、その人だったからだ。

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