教会を追放された元聖女の私、果実飴を作っていたのに、なぜかイケメン騎士様が溺愛してきます!
「ザーク……様?」

 驚きで大きく目を見開けば、イザークはそっと距離を詰めて、エレノアの涙を拭った。

「すまない、邪魔をするつもりは無かったのだが……」

 いつもは近すぎるイザークの距離が、今は遠慮がちに拳一つ分は空いていた。

「いえ。私を心配してくれたんですよね?」

 エレノアは何だかそれが可笑しくなり、いつの間にか涙も引っ込んでいた。

「ああ……。辛いことを思い出させてしまったと。すまない……」
「大丈夫ですよ」

 つい口癖で「大丈夫」が出てしまった。へらりと笑顔を作ると、イザークは悲しそうに顔を歪めて、エレノアを引き寄せた。

「ザーク様……?」
「無理して笑わなくていい……!!」

 辛そうな声が耳元で響くのと同時に、イザークの腕に力が入り、エレノアは抱き締められているのだ、とようやく理解した。

「君はいつも笑顔で頑張りすぎる……! 笑いたくない時は無理して笑わなくて良いんだ!」

 ぎゅう、と抱き締められ、イザークの温もりを感じたエレノアは、そっと目を閉じる。

(あったかい。何だか落ち着く)

 トクン、トクン、と自分の物かイザークの物かわからない心音を聞きながら、エレノアは心が満たされていくのがわかる。

「ふふ、ザーク様は最初から距離感が近すぎるんですよ」
「す、すまない……!」

 エレノアは公爵邸で再会した時も、こんなふうにイザークに抱き締められたことを思い出して笑った。

 すると、イザークは慌てて身体を離した。

「でも今は、あなたの近くが心地良いです」

 エレノアは本心から言葉が出た。

 ミモザが咲き誇る夜の中庭。綺麗な星明かりの元、そんな雰囲気がエレノアを後押ししていた。

「エレノア……」 

 エレノアから離れようとしていたイザークは目を瞠ったかと思うと、その眼差しを熱っぽくさせてエレノアの頬に手を添えた。
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