教会を追放された元聖女の私、果実飴を作っていたのに、なぜかイケメン騎士様が溺愛してきます!
 エマが入口で手続きを取ると、受付の騎士が驚いた表情でエレノアを見てきた。

(何だろう? やっぱり急に来てマズかったかな)

 不安になるエレノアだったが、それは杞憂に終わる。

 受付の騎士がわざわざ出てきて、エレノアを出迎えた。

「ようこそおいでくださいました! おい、ご案内しろ!」

 恭しくエレノアに敬礼したかと思うと、受付の騎士はすぐ側にいた騎士に声をかける。

「はっ!」

 何だか騎士たちが緊張しているかのような、エレノアに対する態度が辿々しい。

「さ、行きましょ」

 何故かにこにことしているエマに促され、騎士団の建物にエレノアは足を踏み入れた。

「聖女様?!」

 敷地に足を踏み入れた瞬間、前から歩いて来ていた騎士に声をかけられ、エレノアはギョッとした。

(え?! 早速私が誰だかバレてる?! 私を知っているなんて……)

 固まるエレノアの前にスッとエマが立ちはだかる。

「サミュ隊長!」

 受付の騎士と案内を請け負ってくれようとしていた騎士が一斉に彼に敬礼をする。

(隊長? 私に上官との面識は無いはず)

「お疲れ様」

 敬礼を返し、隊長と呼ばれた人は人懐っこい笑顔で彼らを労った。

 赤茶色のふんわりとした髪に、くりくりの丸い茶色の瞳。見た目は可愛らしいその騎士は、人好きのする笑顔でエレノアに近付く。

「突然失礼いたしました。僕は昔、貴方に命を救ってもらったことがあるんです」

 警戒するエマの後ろから顔を覗かせ、エレノアはその人の良さそうなサミュの顔を見つめた。

(私が上官を治癒することは無いはず)

 心当たりの無い顔に、エレノアも警戒心を持った表情でサミュを見れば、彼はくしゃりと笑顔を作った。

「僕の名前はサミュ。今でこそ、第一隊の隊長を任されていますが、ニ年前はただの一兵卒でした」
「ニ年前……」

 エレノアはすぐに思い当たることがあった。

 ニ年前、大掛かりな魔物討伐が行われ、多くの犠牲者を出したのだ。もちろんエレノアも駆り出され、治療に駆けずり回った。

「僕は孤児なんです」

 ニ年前の悲惨な出来事を思い返していると、サミュは何の躊躇いもなく、エレノアに笑顔で告げた。
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