教会を追放された元聖女の私、果実飴を作っていたのに、なぜかイケメン騎士様が溺愛してきます!
 お店の片付けをしながら、誰もいなくなったイートスペースを見る。

 騎士は今日も果実飴を食べると、帰ってしまったようだ。

(本当に何なんだろう? やっぱり、単純に飴が気に入っただけ?)

 でも、昨日確かに彼は『迎えに来た』と言っていた。

 エレノアを使うだけ使ってボロ雑巾のように捨てた教会。

 聖女の力が弱まって追い出されたものの、聖女自体数が少なく、万年人手不足だ。

 後ろ盾がある貴族令嬢様は聖女としても優遇され、華やかな儀式を任されているが、孤児出身であるエレノアは、ひたすら雑務をしていた。

 ごくたまに、人手が足りない時は表に出て治癒行為を行う。それ以外は、“聖水”と呼ばれる、回復薬をひたすらに毎日作らされていた。

 エレノアは、10歳で教会に連れていかれてからは、休みなんてほぼ無かった。倒れることも許されず、体調が悪くても毎日毎日、聖水を作っていた。

 それでも、エレノアの力が世の中の役に立っているんだ、という誇りと、シスターに送金される寄付金を思うと、踏ん張ってやって来れた。
 ……なのに。

 力が無いからと捨てたのに、今更連れ戻しに来たのか。

(ああ、面倒だ。私はこの暮らしを守りたいのに)

 女将に迷惑をかけることを考えたら、もしあの騎士が強硬手段に出るならば、大人しく従うべきだろう。

 はあ、とエレノアは大きな溜息をつく。

 教会では二度と働きたくない。

 あんなやりがい搾取な、人を人とも思わない魑魅魍魎な場所。

(何が聖女。何が教会。あんな場所には二度と戻りたくないのに)

 はあーー、とエレノアは再び大きく溜息をついた。

(あの人の良さそうな騎士様が無理矢理、なんて考えにくいけど、見た目で判断なんて出来ないものね)

 相手はルアーナ王国の騎士。警戒しなくては。

 そう思うのに、エレノアの脳裏に浮かぶのは、果実飴を美味しそうに頬張る騎士の可愛らしい姿だった。

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