教会を追放された元聖女の私、果実飴を作っていたのに、なぜかイケメン騎士様が溺愛してきます!
「ふふ、本当に仲がよろしいですね」

 繋がれた手をちらりと見ると、サミュがにっこりと笑った。

 エレノアは恥ずかしさで思わず手を離そうとしたが、イザークががっちりと掴んで離してくれない。

「俺の妻だからな」

 にっこりと笑うサミュに、イザークがジロリと睨むと、サミュが声をあげて笑った。

「あははは! 団長が結婚なんて信じられませんでしたけど、本当に運命ってあるんですね」

 運命、とはまた大袈裟な言い方だな、とエレノアが大笑いするサミュをポカンと見ていると、彼は視線に気付いて屈託なく笑った。

「この運命は、僕のお陰でもあるんですから、感謝して欲しいですね?」
「????」

 増々わからないことを言うサミュにエレノアが首を傾げていると、イザークがエレノアを隠すように前に立ちはだかる。

「サミュ……」
「あー、はいはい。すみません。口は慎みます。でも団長? 僕にとってもエレノア様は女神だったんです。少しくらい話しても……」
「俺は彼女を神格化している訳では無い。一人の女性として見ている」
「ザ、ザーク様!」
 
 サミュとのやり取りに、イザークが恥ずかしげもなくそんなことを言うので、エレノアは慌ててイザークを止める。

「うわー、ごちそうさまです。まあ、団長は根は優しいですが、氷の鉄壁と言われていますからね。ちゃんと血が通っていて良かったです」

 サミュはそう言うと、「また遊びに来てくださいね」とイザークの後ろから顔をのぞかせるエレノアに手を振って去って行った。

「まったく……」

 去って行ったサミュの方向を見て、イザークがため息を吐いた。

 サミュといい、エマといい、イザークは随分部下から誂われていたり、軽口を叩かれている。それは馬鹿にされたり、見下されているわけではない。彼の人柄がそうさせているのだと、エレノアにはわかった。

(良いなあ。みんな、ザーク様の家族だったり仲間だったり、ちゃんと彼の隣にいる)

 そんな関係が羨ましく、眩しくもあった。

 イザークからの告白は真剣で、嘘があるとは思っていない。だからこそ、孤児である自分が彼の側にずっといて良いのかエレノアは悩んでいた。

(教会の糾弾が終わったら……? 私が役に立つことってあるのかな?) 

「運命?」

 先程サミュが言っていたことが気にかかり、エレノアはつい口にしていた。

「……それは……」
「それは?」
「……また今度」

 イザークはそれ以上何も言わなかったので、エレノアも気にするのをやめた。

 ただ、繋いだ彼の手からじんわりと温かい熱が伝わるのを感じた。
 
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