教会を追放された元聖女の私、果実飴を作っていたのに、なぜかイケメン騎士様が溺愛してきます!
「エレノア様、お供いたします」
「ありがとうございます」

 店の外にいた護衛がエレノアに声をかける。

(カーメレン公爵家から付けてもらってる護衛もいるし、何かあっても大丈夫だよね)

 エレノアはバーンズ侯爵家の名前のことなんてすっかり忘れて、護衛と一緒に侯爵家を目指した。

「お待ちしておりました」

 バーンズ侯爵家の屋敷に着くと、入口で待っていた執事に中に通される。

(うわあ……カーメレン公爵家もでっか、と思ってたけど、ここもだだっ広いわね。それに、あらゆる物がキラッキラのゴテゴテだわ……)

 カーメレン公爵家の調度品はシックながらも上品で落ち着いた物だったが、バーンズ侯爵家の中は、あからさまに金銀の装飾でゴテゴテとしていた。

 エレノアはゴテゴテの廊下から、中庭の温室までと案内される。

「お付きの方はここまででご遠慮ください」

 温室の入口で執事が付き添ってくれていた護衛に声をかける。

「しかし……」
「ご遠慮、ください」

 護衛は食い下がろうとするも、執事が強い言葉で拒否をする。

「大丈夫ですよ、果実を届けるだけですから」
「エレノア様、しかし……」
「何かあったら飛んできてください。側にいてくだされば安心です」

 護衛に安心させるようにエレノアが笑うと、彼も頷いて納得した。

(入口で待っててもらえるし、侯爵家の中で何かあるなんてこと無いでしょう)

 エレノアは自分を納得させると、執事に促されて、温室の中に足を踏み入れる。

「いらっしゃい」

 少し高くて綺麗な女の人の声がし、エレノアは目をやると驚愕した。

 赤い薔薇のような綺麗な髪に、赤い瞳。その細い瞳をゆったりと下げ、その声の主はエレノアを見据える。

 豪華な赤いドレスに身を包み、温室の薔薇に囲まれるご令嬢は、まるで女王様のようだ。

 その美しい人には見覚えがあった。

 教会の聖女の頂きに立つ、大聖女。彼女がそうだった。
< 82 / 126 >

この作品をシェア

pagetop