教会を追放された元聖女の私、果実飴を作っていたのに、なぜかイケメン騎士様が溺愛してきます!
(知って……? いやいや、極秘任務のはず……)

「あなたが役立たずの元聖女だということは調べがついております!」

 エミリアの言葉に、エレノアはひゅっ、と息を呑む。エミリアは椅子から立ち上がり、エレノアの前まで来ると、蔑んだ表情で見下ろす。

「王家は聖女を重宝してくださっています。たとえあなたのような力のないゴミ聖女でも、放っておけなかったのでしょう! イザーク様は王家のご命令に逆らえず、あなたみたいなゴミを娶るしかなかったのよ!! ああ、お可哀想に、イザーク様!! 私という素晴らしい聖女の婚約者がいながら、切り裂かれるなんて……!!」

(ええと? どこから突っ込んだものか……)

 目の前で悲嘆するエミリアに、エレノアは絶句する。しかし、やはりエミリアはオーガストの任務については知らないようだ。

「グランから話を聞いた時は驚きましたが、騎士団にあなたが現れたのは好都合……いえ、良い機会。わからせてあげようと思い、あなたのことをグランに調べさせたのです」

 お前かっ!とエレノアはグランを睨み付けると、エミリアに紹介されて得意げな顔をしているグランが立っていて、エレノアは辟易とする。

 果実店を探し当てられ、ここまで連れてこれたのはグランのせいだとわかり、腹が立つ。

(教会に存在がバレないように大人しくしていたのに、まさかザーク様の結婚への批判からこんなことになるなんて……)

「……汚らしい手」

 エレノアが考え込んでいる間に、エミリアはさらにエレノアに近づき、彼女の影がエレノアに落ちたかと思うと、エレノアはエミリアに手を踏まれていた。

「痛っ……」

 思わず声を上げれば、エミリアの顔が愉悦に変わる。

「その汚い手でイザーク様に触れているかと思うだけでおぞましい! 孤児の分際で!」
「本当に。イザーク様に相応しいのはエミリア様ただお一人です」
「ふふ、そうでしょう」

 エレノアの手から足を退けたエミリアがクスクスと笑う。

 イザークのハンドクリームで改善しつつあるも、まだあかぎれのある手からは血が滲んでいた。

「嫌だ、汚い」

 クスクスと笑うエミリアとグランに、エレノアは恥ずかしくなり、手を思わず隠す。が、イザークはエレノアの手を「美しい手」だと言ってくれた。

 エレノアは心の中から温かい想いを取り戻すと、エミリアにキッと強い瞳を向ける。

「ザーク様はこんな、人を貶めるような人に心を傾ける方ではありません!」
「ザーク……様、ですって?!」
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