ハプニングは恋のはじまり
◇3.hap
ふらりと現れた那桜の姿に、店にいた他の女性客たちが思わず「えっ!」と声を漏らしていた。
突然現れたイケメンに色めき立っているのだろう。那桜は一切構わず、真っ直ぐ八重に向かってスタスタ歩く。
「帰りますよ、八重」
「はい……」
八重は抵抗するつもりはなかった。これ以上迷惑はかけられない。
急に現実に引き戻されたような感覚だった。
「明緋さん、ありがとうございました。わたくしの我儘に付き合っていただいて感謝しかありません」
八重は明緋に向かって深々と頭を下げる。
「とても楽しかったですわ。本当にありがとうございます」
「待てよ、八重!」
明緋は八重の衣装の裾を引っ張る。
「お前、大丈夫なのか?」
「…………。」
「八重……!」
「お前が八重を連れ回してたのか?」
那桜は普段の穏やかさは鳴りをひそめ、低い声で明緋を睨みつける。八重は慌てて否定した。
「違います!この方はわたくしの我儘に付き合ってくださっただけです!連れ回したのはわたくしですわ!」
「八重……」
「お前、八重の彼氏か?」
「違いますわ!幼馴染です!」
「幼馴染で八重のお目付役みたいなものだよ。八重が世話になったのなら礼を言うけど」
「お目付役って……なんで八重は監視されなきゃならねーんだよ?」
「……お前に関係ある?」
「明緋さんっ!!」