ハプニングは恋のはじまり
那桜と明緋の間に火花が散らしそうになったところで、八重が割って入る。
「わたくしは大丈夫です!もう帰りますわね」
「八重……っ」
「さようなら」
恋愛ごっこ、デートの真似事は終わり。
自分と一緒にいたら、明緋はあらぬ疑いをかけられて責められる。
見つけてくれたのが那桜でよかった。
もしあのSPたちに見つかっていたら、もっと大変なことになっていたかもしれない。
これ以上彼に迷惑をかけてはいけない。もちろん那桜や他の人たちにも。
「ごめんなさい、那桜さん」
八重は歩きながら深々と頭を下げた。
「ほんの少しだけ、自由になりたかっただけなのです」
「わかってますよ」
那桜の声色はいつもの穏やかさが戻っていた。
「八重は辛抱強いけど、たまには羽を伸ばしたくもなるでしょう。でも悪く思わないでください。
こうしないと後で警視総監に怒られるのは俺なので」
「はい……」
「ところで、あの男は何なんです?」
「……わたくしが無理矢理連行されそうになっていると勘違いして助けてくださって、成り行きで一緒に同行していただきました」
「あの男が好きなんですか?」
「えっ!」