ハプニングは恋のはじまり
1日目は団体行動がメインでまず首里城へと向かう。各クラス毎にガイドさんがついてくれて、ガイドさんの案内・解説を聞きながらぐるりと一周するのだ。
「守礼門きれ〜!!八重写真撮ろうよ!」
「はい」
「那桜、カメラ!」
「いいですけど、八重姫しか写らないかもしれませんよ」
「頼んだ私がアホでした!」
ギャーギャー騒ぎながら、何だかんだで守礼門をバックに2ショットを撮ってもらった。
正に沖縄に来たと実感できる一枚だ。
「満咲さん、ああやって見るとマジで姫だよなぁ」
「ああ、正しく『八重姫』だよ」
同じクラスの男子たちの声が聞こえた。
「八重姫」というのは、八重のあだ名だ。
華道家の母より叩き込まれた優雅な立居振舞い、丁寧な言葉遣い、艶やかな長い黒髪に伏目がちな長いまつ毛は正に大和撫子。
家柄も相成り、誰もが八重を姫と称える。
「(姫と言っても、所詮は籠の中の鳥ですわ)」
父親の庇護下で大事にされてきたお姫様。そんなものに、八重自身は価値を見出していなかった。
自分の生まれた家に文句を言うつもりはないが、時々思うのだ。普通の女の子と同じように、ただ友達と自由に遊んでみたかったなぁと。
願わくば普通の女の子のように恋がしてみたかったと、考えてしまう時がある。
「(……きっとわたくしには、大それた夢ですのね)」