ハプニングは恋のはじまり
お手洗いに行くだけでも断りが必要で、楽しみにしていた鍾乳洞は一人だけ留守番。
何故自分だけ、と思わずにはいられない。
自分の立場を理解して、聞き分けの良い子どもでいようと思っても限界がある。
何故自分だけ行動を制限されなければいけないのか。
何故修学旅行で思い出を作ることすら許されないのか。
こんなに不自由はもう嫌だ、と思った。
鍾乳洞を巡り終わるまできっと1時間以上はかかるだろうし、まだ鏡花たちは帰って来ない。
その間一人でどうしていれば良いのだろう。
いっそここから逃げ出してしまおうか。
そんなことを本気で考えながら、手を洗っていた。
無論そんなことはできない。
八重は運動だけはからっきしで足も遅い。逃げ出せるわけがないとわかっている。
大人しく待つしかないのか――
「八重お嬢様、参りましょう」
「……。」
屈強な男たちを前にして、やっぱり逃げ道などどこにもないと思った。
王子様が連れ出してくれたら、なんて夢を見るのはとっくの昔に捨てている。
仕方なくついて行こうとした、その時だ。
「――オラァ!!」
どこからか、勢いよく飛び出してきて、SPたちに殴りかかった。閃光のようなパンチがSPの一人を吹っ飛ばしたかと思うと、八重の手を引いて走り出す。
「こっちだ!!」