初恋のつづき
ーーその後名桐さんの方からはプレス発表会の説明があり、いくつか意見を交換し合って(私も気になる点を確認させて頂いた)この日のミーティングは一時間ほどでお開きとなった。
同時にさっき一瞬様子のおかしかった私に目敏く気づいていたらしい真瀬さんにつつかれるも、そこはのらりくらりと何とか誤魔化しておく。
そんな風にいじられているうちに、気づけば他のメンバーたちはほとんど退席していた。
終わってしまえば再び先ほどの名桐さんが気になって、帰り支度をしている彼をチラリと盗み見てしまう。
でも、もし仮に彼が本当に《《あの》》名桐くんだったとして、彼は十年も前に同級生だっただけの私のことなんて、果たして覚えているだろうか。
それにうちは母一人子一人の母子家庭だったのだけど、私が高校を卒業すると同時に母が再婚して私に義父と三つ下の義弟が出来、それに伴い名字が〝遠野〟から〝有賀〟になった。
見た目だって、いくら童顔とはいえメイクだって施しているし、さすがに十年も経てばあの頃とは変わっているはず。
従って彼が私に気づく要素は一つもないだろうし、「もしかしてあの名桐くんですか?」なんて話し掛けたところで困惑させてしまうだけだろう。うん。
結局そういう結論に至って、私は特に何かアクションを起こす訳でもなく、資料とノートパソコンを抱えて「お疲れ様でした」とそそくさとミーティングルームをあとにした。
ーーところが。
廊下の真ん中辺りまで来たところで思わぬことが起こった。
「ーー遠野 千笑」
「はっ、はい……っ⁉︎」
後ろから、唐突にそう声を掛けられたのだ。
それはついさっきまでミーティングルームで聞いていた、すんなりと耳に馴染む心地よい声だった。
同時にさっき一瞬様子のおかしかった私に目敏く気づいていたらしい真瀬さんにつつかれるも、そこはのらりくらりと何とか誤魔化しておく。
そんな風にいじられているうちに、気づけば他のメンバーたちはほとんど退席していた。
終わってしまえば再び先ほどの名桐さんが気になって、帰り支度をしている彼をチラリと盗み見てしまう。
でも、もし仮に彼が本当に《《あの》》名桐くんだったとして、彼は十年も前に同級生だっただけの私のことなんて、果たして覚えているだろうか。
それにうちは母一人子一人の母子家庭だったのだけど、私が高校を卒業すると同時に母が再婚して私に義父と三つ下の義弟が出来、それに伴い名字が〝遠野〟から〝有賀〟になった。
見た目だって、いくら童顔とはいえメイクだって施しているし、さすがに十年も経てばあの頃とは変わっているはず。
従って彼が私に気づく要素は一つもないだろうし、「もしかしてあの名桐くんですか?」なんて話し掛けたところで困惑させてしまうだけだろう。うん。
結局そういう結論に至って、私は特に何かアクションを起こす訳でもなく、資料とノートパソコンを抱えて「お疲れ様でした」とそそくさとミーティングルームをあとにした。
ーーところが。
廊下の真ん中辺りまで来たところで思わぬことが起こった。
「ーー遠野 千笑」
「はっ、はい……っ⁉︎」
後ろから、唐突にそう声を掛けられたのだ。
それはついさっきまでミーティングルームで聞いていた、すんなりと耳に馴染む心地よい声だった。