初恋のつづき
「あ、あとこれ」
 

すると、亮ちゃんがもう一つ、今度は私に小ぶりな紙袋を差し出した。


「ん?……あっ、それはもしかして……!」

「今朝の電話の感じだと、今日は昼もまともに食ってないんじゃないかと思って。千笑ちゃんの好きなパン屋のデニッシュフレンチトースト。他にもいくつか入ってるから。千笑ちゃん、集中すると食事するのも忘れるでしょ?」

「へへ、ありがとう……。嬉しいです」


……さすが亮ちゃん、私のことをよく分かっていらっしゃる……。


うちの近所にあるパン屋〝pétrir(プトリール)〟は私のお気に入りで、特にそこの贅沢にバターを使った特製デニッシュ食パンのフレンチトーストは私の大好物。

たっぷりと卵液を含んでから焼かれているから、ふんわりと柔らかく、噛むごとにジュワッと広がる甘さとジューシーさがたまらないのだ。

朝の電話の様子からこんな細やかな気遣いまでしてくれるなんて、本当になんて優しくてデキた義弟なんだろう……。


「亮ちゃんは、今日帰り遅いの?」


感動しながらその紙袋を受け取って、これから出勤ということはきっとそうなんだろうなと思いながらも尋ねてみる。


「うん」

「そっか。頑張ってね」

「千笑ちゃんもね」

「うん、このパンのおかげで頑張れそう」


もらったばかりの紙袋を軽く持ち上げそう返した私を見て、「ふふっ、良かった」と笑った亮ちゃんは、「じゃあ僕そろそろ行くね」と軽く伸びをして。

「ほんとに助かりました!ありがとうね」と言った私に「ん。またね」と軽く手を振って帰っていく。

私はそのまま、何となくその背中がエントランスドアの向こうに消えるまで見送っていたのだけど。



「ーーお疲れ様です!有賀さん」



その時突然背後から一際明るい声を掛けられて、あまりの不意打ちに、「へっ……⁉︎」と私の口から何とも間抜けな一音が転がり落ちた。
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