初恋のつづき
ーーその後ミーティングルームへ向かうと、開始予定時刻よりも早い時間だからか、そこにはまだ誰も来ていなかった。
渋谷さんは「始まる前にちょっとお手洗いに!」とさっき出て行ってしまったので、今の私は名桐くんと二人きりだ。
「有賀さん」
何となく手持ち無沙汰だったためプロジェクターの状態なんかを無駄にチェックしていれば、すぐ側で持て余しそうなほど長い足を組んで座りノートパソコンを弄っていた名桐くんに呼びかけられた。
「はい」
「今日、仕事終わったら連絡して」
「〜〜……っ、」
……声が、出なかった。
だって、さっきから言動がすっかりビジネスモードだったし。
今だってパソコンをカタカタと打ちながら〝有賀さん〟なんて呼ぶから。
私はすっかり油断していた。てっきり仕事の話でもされるものだと。
なのに名桐くんの方を向けば、彼の形の良い唇から紡がれたのは仕事の話じゃなかったから。
だから、咄嗟に声が出なかった。
彼の、深い暗灰色の瞳が真っ直ぐにこちらを見つめている。
「返事は?」
そう促す上目遣い気味の小首を傾げる仕草が何とも妖艶で。
気づけば私はそれに操られるように、「はい……っ!」と返事をしていた。
ーーあれ。
今からこんな色気にあてられて、私今日、生きて帰れるのかな。