初恋のつづき
「あ」


するとそんな私を面白そうに眺めていた名桐くんが、そこで何かを思い出したように一音漏らした。


「なに?」

「そう言えば、昔もそういうの食ってたよな」

「そういうの?」


そしてお通しの入っている小鉢を(おもむろ)に指で差す。


「まぁ、さすがにさきイカは食ってなかったと思うけど、ほら、酢昆布、茎わかめ、干し梅に、あと何だっけ、あの、甘辛いスルメみたいなのとか」

「……甘辛いスルメ……、ああ!恋スルメ!」

「そんなネーミングだったのか、あれ」


甘辛いパウダーがまぶしてあるスルメで、一度食べるとクセになるやつだ。


「〝名桐くんも食べる?〟ってくれる菓子のチョイスが現役女子高生とは思えないくらいいつもすげー渋かったから、よく覚えてる」


ーーそうだった。


あの頃、放課後の空き教室で少しずつ会話を交わすようになってから、勉強前に小腹を満たすために持ち歩いていたお菓子を名桐くんにも〝良かったらどうぞ〟とお裾分けしていた。

それがなぜそんな渋いチョイスだったかというと、ただ単に好きだったから、という一言に尽きるのだけれど。


「う……、そういうのは忘れてくれてていいんだけどな……」


できればチョコとかクッキーとかマシュマロとか、もう少し可愛げのあるお菓子で記憶に残っていたかった……。

でも、今だってデスクの引き出しに間食用としてそれらがしまってあるのだから、もうどうしようもない。


「あと、あれも覚えてる」

「な、なに……⁉︎」


名桐くんの記憶の中の私はきっと(ろく)なもんじゃない。それだけは確実に言える。

だから次に来る言葉に備えて戦々恐々と構えていれば。


「ーー弁当開けたら2段とも白飯だったの」


……ほら、やっぱり碌なもんじゃなかった。

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