初恋のつづき
ーーあの当時、お弁当を作るのは私の担当だった。
それまでは母が私と亮ちゃんのお弁当を作ってくれていたけれど、夜遅くまで忙しく働いてくれていた母に朝はせめて少しでもゆっくり休んでいて欲しくて、いつの頃からか私が作るようになったのだ。
と言っても夕飯の残りを詰めたり冷凍食品に頼ったりの、ごく簡単なものだったけれど。
それがある日、全く同じお弁当箱を使っていたばっかりに、うっかり亮ちゃんの方におかず二段、私の方に白米二段のお弁当を包んでしまったことがあった。
昼休み、亮ちゃんからは二段ともおかずのお弁当を写した写真と、購買で白米の代わりに買ったのだろう菓子パン二つを写した写真、それと最後にクマがお腹を抱えて笑っているスタンプが送られて来て。
それを見た友達からは『ほんと抜けてるとこあるよねー、千笑は!』と漏れなく大爆笑されて。
「ーーおかず、分けてもらってたよな」
そう。優しいいつものメンバーがその日、私におかずを一つずつ分けてくれたんだ。
だけど白米二箱を食べ切るのはさすがに大変で、それもみんなに手伝ってもらって……、って。
でも、ねぇちょっと待って。
だってそれはあの空き教室での出来事じゃなくて、普通の教室での出来事で……。
なのに、何で名桐くんがそんなことを覚えているの……。
「何で……」
「オレが見た、遠野のしっかりしてるように見えて、うっかりなところ」
私の疑問を受けた彼が、そう言ってニヤリと笑った。
『ーーしっかりしているように見えてうっかりなところは変わらないんですね、有賀さん』
エントランスでそう言われた時、私はあの頃、名桐くんにうっかりなところを見せたことあっただろうか、と思っていた。
だってそんなところを見せるほど、私たちはあの空き教室で多くを話した訳じゃなかったから。
でもまさか、そこ以外で目撃されていたとは思いもしない。
あの白米事件は、名桐くんとあの空き教室で過ごすようになる前のことだったっけ?それともあと?
いずれにしても、見られてたんだ、と思ったら何だか急に頬が熱い。
「……やっぱりズルい……」
その火照りを冷ますようにカシオレを喉に流し込む直前、グラスの底にぽつりと落とすようにそう小さく呟けば。
「ふ、だから、何がだよ」
それを耳聡く拾ってしまった名桐くんがニヤリ顔をくしゃりと崩したから。
一口、二口飲むだけのつもりだったそれを、私は一気に煽る羽目になった。