初恋のつづき
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蔦の絡む褪せたレンガ造りの外観。それにしっくりと馴染んでいる、年季の入ったダークブラウンのドアと格子窓。
屋根に掲げられている看板は木造で、長年雨風に曝されてきたであろう風合いのそれは、このお店の歴史を感じさせる。
真瀬さん御用達の〝四季〟は、テーブル席四席と一枚板のカウンターのみの、こぢんまりとしたいわゆる昔ながらの純喫茶。
ロマンスグレーのマスターがサイフォンでコーヒーを淹れてくれる、今時珍しいお店だ。
会社からそんなに遠くはないのだけど、割と入り組んだ場所にあるせいか、いつもほぼ常連さんで構成されていて、お昼時でも心地よい静けさが保たれている。
深みのあるコーヒーの香りとサイフォンの音、読書や会話の邪魔をしない程よい音量と選曲のBGM。
それら全てが合わさって、とても居心地の良い空間を紡ぎ出してくれるのだ。
真瀬さんに連れてきてもらってからというもの私もすっかりお気に入りになり、ランチに来たり仕事帰りにフラッと寄ってみたりと、度々利用させて頂いている。
「ーー今回のうちのプロモーション担当、早乙女さんじゃなくなっちゃったんですか?」
窓際のテーブル席に座り、日替わりスープとサラダ、コーヒーのついたサンドイッチセットの厚焼きたまごサンドを頬張りながら、向かいでナポリタンを食べる真瀬さんに聞く。
「ああ。彼女、何でも今度結婚するご主人の海外転勤について行くことになったとかで、業務の引き継ぎが終わり次第退職されるんだそうだ。だから、今回のうちの担当は別の人。なかなかやり手のイケメンらしいぞー?」
「えっ、退職されるんですか⁉︎」
今の私の興味の対象は、残念ながらやり手のイケメンよりも早乙女さんだった。