初恋のつづき
クリクリの瞳で名桐くんに純粋な疑問をぶつけている渋谷さんに、私が代わりに答える。


「あっ、私、今は有賀なんですけど、昔は遠野だったんです、」


でも、〝母の再婚で……〟と続けようとしたところで、ハタ、と一瞬躊躇う。

私にとっては何でもないことでも、再婚により名字が変わった、なんてところまで話せばお酒の席とはいえきっと変に気を遣わせてしまうこともあるかもしれない。

だからここはサラッと軽く付け加えてそのまま話題を変えてしまおう、と〝母の再婚で名字が変わって〟とそんなに間を置くことなく、ごく自然に続けようと口を開いた、のだけれど。


「は、」

「……なるほど!……ああ、なるほど……、名字が……、変わって、いらっしゃる……」

「はい、あの、」

「……あ、あー、っと、今の時代、そういう話題を深掘りするの、あんまり良くないですよね!セクハラとか、コンプラとか色々ありますからね!あっ、ちなみにオレとなぎちゃんはね、同期なんですよ!」


二回ほどなるほどと繰り返しながらチラッと名桐くんを見遣った渋谷さんに一度目を遮られ。

再び補足を試みるも、そこでなぜか名桐くんからのひと睨みを浴びた渋谷さんにまたもや遮られ……。


ついには一足早く話題が変わってしまった。


……あれ、この感じも何かデジャヴ……?


名桐くんといい渋谷さんといい、仕事の出来る営業マンというのは、皆まで言わずとも少ない情報から察してくれる能力が高いのだろうか……?


セクハラ(はなんかちょっと違う気もするけれど)とかコンプラとか、全然そんな大層な話でもないんだけれど……、と思いながらも、でもせっかく気を遣って下さったのにわざわざその話題に戻してまで説明するほどのことでもないから。

私は少々面食らいながらも、渋谷さんのその話題に乗ることにした。

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