初恋のつづき
「ご、ごめん……!」

「あれー?なぎちゃんが照れてる?珍しー!」

「え……?」

「……うるさい」


慌てて謝れば、渋谷さんが名桐くんをそう茶化すから。

よくよくその横顔を見てみると、ほんのり耳が赤い気がして。

……照れてる、だけ?

なんだ、良かった……。

私は密かに胸を撫で下ろした。

さっきから思ったことがそのままツルッと喉を通って外に出ていってしまうから、さすがに呆れられてしまったかと思った。

すると隣で名桐くんをつついていた渋谷さんが、そわそわしながら私と彼を交互に見て聞く。


「ところで、高校時代の二人は結構仲良かったんですか!?」

「え!?……いや、うーん……、そ、それほどでも……?」

「……おい」


一瞬考えたのち私がそう答えれば、そっぽを向いていた名桐くんの顔がこっちへ戻って来たけれど、その眉間にはしっかりと皺が刻まれていた。


「……ふはっ!有賀さんに振り回されてるなぎちゃん、面白い……」

「てめ……」

「だっ、だって同級生って言っても、クラス同じだったの三年の時だけだったし……!ね……?」
  

急いでそう付け加えて同意を求めてみても、彼の眉間の皺は消えないまま。

何とも形容し難い、難しい表情で唐揚げを(おもむろ)に口に放り込むだけ。



ーーだけど、ここはひとつ弁解させて頂きたい。



何せ、私たちはクラスが同じでも、接点があったのはあの放課後の空き教室でだけだったのだ。

しかも、期間にして二ヶ月もなかった。

それだって、最初のうちは同じ空間にいながらお互い全く干渉せず。

〝ジュ・トゥ・ヴ〟をきっかけにそれから言葉を交わすようにはなったけれど、あの教室に鍵が掛けられてしまってから私たちは、まるであそこで二人で過ごした時間なんて嘘だったかのように、ただのクラスメイトに戻った。

私にとってあの時間はすごく特別なもので、あの空間の中でだけは名桐くんに近づけたような気がしていたけれど、名桐くんにとって私とのあの時間と空間が果たしてどういう位置付けにあったのか、そこがよく分からないから。

だから私たちの関係はただの元同級生であり元クラスメイトと表現するのが適切であって、仲が良かったかと聞かれれば、否、としか言いようがないと思うのだ。

なんて。


〝それほどでも……〟


の一言の裏には、こんな複雑な思いがあったりなかったり……。
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