初恋のつづき
「でも意外だなぁ。結構仲良しだったんじゃないかと思ったんですけどねぇ。ハズレでしたかー」


そんな私たちの様子にくふふ、と含み笑いをしながらも、それ以上はそこを深掘りせずにいてくれる渋谷さんにとりあえずホッとしていると、彼はだし巻き卵をつつきながら今度はこんなことを言い出した。


「まぁ昔はきっと、なぎちゃんって結構尖ってたんでしょう?」

「えっ!?あっ、いや!えーっと……」


……そういえば、名桐くんにとって昔のあの姿というのは、黒歴史とかそういうものになるのだろうか。

さっきからチラチラとその片鱗が顔を出してはいるけれど、彼のその聞き方だと昔の名桐くんのことは知らないらしい。

よって私が今ここでそれを肯定して良いものかどうか、判断に迷って名桐くんの方をチラリと見れば、渋谷さんが声を上げて笑った。


「ははっ、大体想像つきますよ?だって、オレが初めて〝ゆりちゃん〟って呼んだ時のあの目付きったらもうね……」

「渋谷……」


途端にギロッ、と名桐くんの眼光が鋭くなる。

彼のお顔はただでさえ彫刻のように整っているのだ。

そのお顔に完璧なバランスで配置されている切れ長の瞳が意志を持ってスッと細まれば、何ていうか、迫力がすごい。


「ほら!それ!もう目が物語っちゃってるから!でもね、職場では、つーかオレ以外の前では?なぎちゃん全然こんなんじゃないんですよ。にこやかで、爽やかな好青年って感じで。
上司ウケも良いし、後輩からは慕われ、クライアントからも頼られ。あ、ミーティングの時の、まさにあんな感じですね!だから昔は尖ってたなんて、そりゃあ誰も思いもしませんよねぇ」


名桐くんの睨みなんてどこ吹く風でケラケラ笑う強心臓の持ち主渋谷さんを前に、それは確かになぁ、と思う。

私だって、もし昔の名桐くんを知らずに今回の仕事で完全に初めてましてだったのなら、過去の彼が尖っていたなんて、絶対に想像もしていない。

間違いなく、昔から爽やか好青年だったんだろうなぁ、と信じて疑わなかっただろう。

ただ過去の方を先に知ってしまっているからこそ、今とのコントラストが強過ぎて驚いてしまっただけで。


「まぁそんなだから社内外問わず女子からのアプローチがすげーんですけど、なぎちゃん全然興味なくて。これがまた華麗にのらりくらりと躱すんですよねー」


言いながら、渋谷さんがチラリと名桐くんに視線を流した。
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