初恋のつづき
「あー、何となく分かります。にこやかに爽やかに営業をこなすそのスキルで、そういうお誘いに対してもにこやかに爽やかに、でもとりつく島もないくらいの感じで躱してそうな……」


これも間違いなく昔の名桐くんにはなかったスキルだろうけれど、今の名桐くんからは簡単に想像出来てしまう。

だから私もチラリと向かいの名桐くんを見遣りながらそう同意すれば、彼は渋い顔をして「おい遠野まで……」と言いかけたけれど、それには全くお構いなしな渋谷さんがさらにグイグイと被せてくる。


「そうそう!まさにそれなんです!あまりにも手応えがなさ過ぎて、ついには一部女子の間で〝名桐さんは男が好き説〟までまことしやかに囁かれたりして!しかもその噂の相手、オレなんですよ、ひどくないですか!?でもその場合、どっちが〝攻め〟でどっちが〝受け〟なの!?って、」

「ぶっ……!」


……まさか、渋谷さんの口から〝攻め〟とか〝受け〟とかりかちゃんみたいなBL用語が出てくるとは思わなかったから、思わずひと口飲んだカシオレを吹き出しそうになってしまった。


「……渋谷……。そろそろお前のそのよく回る口、塞いでやろうか?」


だけど、そこでついにこのままどこまでも続いていきそうと思われた渋谷さんの絶好調、いや、舌好調(ぜっこうちょう)な口を、名桐くんのグラスの中身をも震わせるような不機嫌低温ボイスが止めに入った。

《《低音》》、ではなく《《低温》》。それはもうひんやりとした、真冬の凍てつく空気を連想させるような声だった。


「おっとごめん!脱線してしまった……!」

「……いや、もう脱線どころの話じゃねーわ……」


しかしそれをものともしない彼に名桐くんが脱力した様子でそうツッコめば、「まぁまぁ」とそれすらもへらりと宥めた渋谷さんが、今度は私の方へズイッ!と顔を寄せて来てまだ何かを続けようとしている。

……ち、近い……。

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