初恋のつづき
早乙女さんというのは、度々うちの商品のプロモーションを担当して下さる大手広告代理店TYMの営業企画課課長。
 
確か、年齢は三十代半ばくらいだったと思う。いかにも〝デキる女性〟といった風貌で、間違いなく仕事もバリバリとこなす、とてもカッコいい方だ。

前回の時も統括マネージャーとしてその辣腕を振るって下さり、とてもお世話になった。

てっきりRouge Sorte(ルージュ ソルテ)のプロモーションにも携わって下さると思っていたので、今回は担当じゃないらしいよ、と今日営業部の方から聞いて、その真偽のほどを真瀬さんに確認したいと思っていたのだ。

それにしても、前回のイベント成功の合同打ち上げの時に、「私はこの仕事が大好きだから、きっと何があっても絶対辞めない!」と言っていた彼女が、まさかその仕事を辞めてまでご主人となる方についていくという選択をしたことが、何というかとても意外だった。


「オレも、聞いた時は結構驚いた」


そこで、真瀬さんがナポリタンをフォークに巻きつけていた手をふと止める。

そして、アイスコーヒーのグラスを伝う水滴を目で追いながら、しみじみと呟いた。


「でも、絶対辞めないって言ってた仕事を辞めてでもついて行って側で支えたいと思えるような、そんな人と彼女は出会えたってことなんだよな。それって何か、すげーことだよなぁ」
 

彼は、私と一緒に早乙女さんのあの言葉を近くで聞いていた。

それに、以前から私よりも多くの案件を彼女と共にして来て、彼女の仕事に対する姿勢もよく知っている。

だからこそ、余計にそう思うのだろう。
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