初恋のつづき
「……やだ」

「……ふふっ……」


……ほらね、やっぱり。

彼ならきっと、そう答えるんじゃないかと思った。

それを無意識に聞いてしまったのは、ここにいる名桐くんがあの時と変わらない名桐くんだって、実感したかったから。

纏う凛とした雰囲気は変わらなくても、見た目も中身も、鼻腔をくすぐった香りも触れた指先の温度も、あの頃とは変わってしまったから。

ああ、やっぱりあの名桐くんなんだなぁって、実感して、安心したかったからだ。

どうしてそんな風に思ってしまったのかは、分からないけれど。

だからあの時と同じ、思った通りの答えが返って来て嬉しくて。


私は耳に優しく滑り込んで来たその曲に合わせて、クルッと回りながらステップを踏んだ。


ーーでも。

自分が酔っ払っていることをすっかり失念していた私の足は、敢えなくもつれてふらりとよろめく。

まるでスローモーションのように、傾きかけた視界に星のほとんど見えない、満月だけがポッカリと浮かぶ漆黒の空が映った時。


「……あ……っ、ぶな……」


ガシッ!と私は誰かの、いや、名桐くんの胸に、しっかりと抱き止められていた。

< 53 / 71 >

この作品をシェア

pagetop