初恋のつづき
……私がそれぞれを紹介するまでもなく、なぜかこんなところで名刺交換が行われている。

もはや私はすっかり蚊帳の外だ。


「名桐さんのこと、彼女から少し聞いています。高校の、同級生だったんですよね?今度お仕事でご一緒されるとか」

「……あ、ああ……、はい……」


昨日亮ちゃんの家で夕飯をご馳走になった時、『こんな偶然もあるんだねぇ』と名桐くんとの十年ぶりの再会のことを話したばかりだったから。

流れで世間話まで始まってしまった。


「こんな義姉(あね)ですけど、これからもよろしくお願いしますね」

「は……、い……」


私よりも飲んでいるはずの名桐くんは終始全然酔った素振りもなく、今もビジネスモードを崩すことなくそれに対応していたのだけど、心なしかさっきより反応が鈍くなっている、ような……?

そんな名桐くんの方こそ今更酔いが回ってきた?なんて思いながら、今はそれよりも!とタレ目の柔和な面差しをより一層柔らかく解して私をよろしくしている亮ちゃんを、「ちょっ、亮ちゃん恥ずかしいから……!」と私はぐいぐいエントランスの方へ押し込む。

だって、義弟(おとうと)によろしくされるアラサーの義姉(あね)ってどうなの……?

亮ちゃんは、三つも年下のくせに昔から私よりもしっかりしているのだ。

しかも見た目も童顔な私より大人びて見えるから、こうなってしまえばもうどっちが年上なんだか分からない。

だから私はこの居た堪れない状況から脱するべくもう一度名桐くんの方を向いて、「本当に送ってくれてありがとうね!今日はごちそうさまでした!じゃあまた……!」と、今度こそ亮ちゃんと共に退場を試みた。


だけど。


「有賀さん」

「「はい?」」


そう引き止められて、亮ちゃんと私の返事が見事にハモる。

それはもちろんどっちも〝有賀〟だからで、それに名桐くんはビジネスモードの時はちゃんと私のことを〝有賀さん〟と呼ぶから。

だから私も、反射的に反応してしまったのだ。


「……すいません。亮太さんの方で」

「はい、何でしょう?」


指名された亮ちゃんが、改めてにこにことそれに応えた。
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