初恋のつづき
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滑り台に砂場、ブランコにシーソー、それとパンダ、ゾウを模したちびっ子たちに人気のスプリング遊具のある割と広めの公園。
きょんちゃんを連れて亮ちゃんや京子さんと何度も来たことのあるここに、こんな時間に足を踏み入れたことはなくて。
見慣れている場所のはずなのに、月明かりと街灯に朧げに照らされている人気のない夜の公園は、それだけで何だか新鮮に映る。
それは多分、〝今一緒にいる人〟の効果も大きいのだろうけれど。
そんな中、私たちは木陰にいくつか設置されているベンチではなく、四台あるブランコのうちの二台に並んで座った。
こんなだったっけ、と、名桐くんが楽しそうにそこに座ったからだ。
「── オレたち、あの頃ちょうどこんな感じだったよな」
まずは水分補給しとけ、と促されるままに「いただきます」とレモンティーをひと口飲んだところで、名桐くんが懐旧の情を滲ませた声でそう呟いた。
彼の言わんとしていることは、すぐに分かった。
あの放課後の空き教室で隣り合わせだった私たちは、いつもちょうどこの並びで、このくらいの距離感だったから。
「うん、まさにこんな感じだったね。何か、懐かしい」
「ああ。そのレモンティーも、オレ的にはすげー懐かしいけど」
そこで私の手の中にあるそれをクイ、と顎で示す彼を見て、ハッとする。
「……ひょっとして名桐くん、これも覚えてた?」
「自販機のラインナップ見てたら思い出した。昔、遠野が自販機の前でジンジャーエール片手にすげー絶望的な顔しててさ。何かと思って声掛けたら『うっかり手元が狂って間違えて買っちゃった』って言うから、『買い直さねーの』って聞いたら『今日はもう一文無しなの』って。
その日、財布忘れて辛うじてポケットに入ってたなけなしの百五十円だったんだよな。
で、その時買うつもりだったのがレモンティー。炭酸は、舌がビリビリするから苦手なんだろ?」
言いながら、名桐くんが自分のジンジャーエールを軽く持ち上げてニッと笑った。
── そう。それであの時名桐くんが何も言わずレモンティーを買ってくれて、『オレのと交換して』って、たった一言。
……実は手元が狂ったのにはただのうっかりではないちゃんとした訳があって、絶望的な顔をしていたのにも、炭酸のせいだけではない理由があったのだけど。
そのぶっきらぼうな優しさが、沁みちゃったんだよなぁ……。
そうだよ、昔からそういうところがズルいんだった、名桐くんは。
って、まさかそんなことまで覚えていたなんて、彼の記憶力には本当に脱帽だ。
さすが、〝記憶力は良い方だし〟なんて自分で言うだけある。
でも。
「だから、何でそういうことばっかり覚えてるの……、って、── ん?ということは、さっきジンジャーエールを差し出そうとしたのは、わざとだね……?」
「── バレた?」
「意地悪……!」
「ははっ」
気づいてしまった私のじとりとした視線を物ともしない名桐くんの楽しそうな笑い声が、仰いだ夜空に昇って溶けた。