初恋のつづき
……この状況は、一体どう表現すれば良いだろう。
背後に壁はないけれど、まるで壁ドンをされているような、逃げ場のない、そんな感覚。
ブランコごと後ろに下がろうとしても、チェーンを掴まれてしまっているせいで残念ながらそれは叶わない。
な、何だこれは……。壁ドンならぬ、ブランコドン?
ブランコでも、壁ドンって再現出来るんですね……!?
なんて、自分の置かれた状況を前に私の思考回路はとっくにおかしくなっている。だって、気を紛らわせなければ今にも心臓が口から飛び出しそう。
この距離ではどうしたって息を吸う度に名桐くんの香りが酸素と共に体内に取り込まれて、また否応なしにさっき抱き止められた感覚だとかがフラッシュバックしてしまうから。
だから、彼の緩められているネクタイの結び目あたりをひたすら凝視しながら息を止めてみたけれど、当然それも長くは続きそうにない。
「── で、遠野は、変わったオレは嫌い?」
そんな私を前に、この人はさらに追い討ちをかけて来る。
「き……っ!?まっ、まさか!」
「ふーん?じゃ、好き?」
「す……っ!?」
艶麗な笑みを携えて、な、何てこと聞くんだこの人は……!
分かっている。この質問の意味は、あくまで〝人として〟好きかどうかであって、それ以上でも以下でもない。
だからここはそのままサラッと返せば良いのだ。好きだと、こっちの名桐くんも良いと思うよとさり気なく、何でもない風に。
分かっている。分かっているのに。
仮にも十年前、私はこの人のことが〝恋愛的な意味で〟好きだった訳で。伝えることはできなかったけれど、好きだった訳で。
それに加えてこの体勢。
それが今の私にさり気なく、何でもない風にすんなりと〝好き〟だと音に乗せることを躊躇わせているのだ。
……って、本当にこの状況は、一体何……!?
スムーズに返せなかったせいで不自然な間が生まれてしまっている。
コツコツと経験を積んでそれなりに向上したと自負していた私のコミニケーションスキルは、先ほどまでそこそこ順調に機能していたはずなのに、たった今完全に停止してしまった。
そうして会話に躓いた私を、依然として至近距離から見つめるその双眸がより一層悪戯に細まって、静かに答えを促す。
── どうやら、答えるまでこのブランコドンからは逃れられそうにないらしい。
そう悟った私はごくりと唾を飲み込み、意を決して口を開く。
だけど。
「……き!」
「き?」
「嫌いじゃない!です!」
なぜか物理的にも精神的にも追い込まれているような感覚の中、勢い良く口をついて出た答えがそれで。
言ってしまってから、な、何て上から目線な答えなんだ……!と愕然とした。他にもっと言いようがあったじゃないか……!と。
背後に壁はないけれど、まるで壁ドンをされているような、逃げ場のない、そんな感覚。
ブランコごと後ろに下がろうとしても、チェーンを掴まれてしまっているせいで残念ながらそれは叶わない。
な、何だこれは……。壁ドンならぬ、ブランコドン?
ブランコでも、壁ドンって再現出来るんですね……!?
なんて、自分の置かれた状況を前に私の思考回路はとっくにおかしくなっている。だって、気を紛らわせなければ今にも心臓が口から飛び出しそう。
この距離ではどうしたって息を吸う度に名桐くんの香りが酸素と共に体内に取り込まれて、また否応なしにさっき抱き止められた感覚だとかがフラッシュバックしてしまうから。
だから、彼の緩められているネクタイの結び目あたりをひたすら凝視しながら息を止めてみたけれど、当然それも長くは続きそうにない。
「── で、遠野は、変わったオレは嫌い?」
そんな私を前に、この人はさらに追い討ちをかけて来る。
「き……っ!?まっ、まさか!」
「ふーん?じゃ、好き?」
「す……っ!?」
艶麗な笑みを携えて、な、何てこと聞くんだこの人は……!
分かっている。この質問の意味は、あくまで〝人として〟好きかどうかであって、それ以上でも以下でもない。
だからここはそのままサラッと返せば良いのだ。好きだと、こっちの名桐くんも良いと思うよとさり気なく、何でもない風に。
分かっている。分かっているのに。
仮にも十年前、私はこの人のことが〝恋愛的な意味で〟好きだった訳で。伝えることはできなかったけれど、好きだった訳で。
それに加えてこの体勢。
それが今の私にさり気なく、何でもない風にすんなりと〝好き〟だと音に乗せることを躊躇わせているのだ。
……って、本当にこの状況は、一体何……!?
スムーズに返せなかったせいで不自然な間が生まれてしまっている。
コツコツと経験を積んでそれなりに向上したと自負していた私のコミニケーションスキルは、先ほどまでそこそこ順調に機能していたはずなのに、たった今完全に停止してしまった。
そうして会話に躓いた私を、依然として至近距離から見つめるその双眸がより一層悪戯に細まって、静かに答えを促す。
── どうやら、答えるまでこのブランコドンからは逃れられそうにないらしい。
そう悟った私はごくりと唾を飲み込み、意を決して口を開く。
だけど。
「……き!」
「き?」
「嫌いじゃない!です!」
なぜか物理的にも精神的にも追い込まれているような感覚の中、勢い良く口をついて出た答えがそれで。
言ってしまってから、な、何て上から目線な答えなんだ……!と愕然とした。他にもっと言いようがあったじゃないか……!と。