王子様を落とし穴に落としたら婚約者になりました ~迷惑がられているみたいですが、私あきらめませんから!~
(その結果、わたしは殿下に、あんな顔で『嫌い』なんて言わせてしまったのね……)

 真剣な顔で、理解しないエイミーにわからせるように、はっきりと「嫌い」だと――優しいライオネルに、そこまで言わせた。

 政略結婚なのだ。必ずしも相手に愛される必要はない。

 でも――エイミーのことを、大嫌いなライオネルにとって、そんな結婚生活は苦でしかないのではないか。

 エイミーはいいのだ。どれだけ傷ついても、どれだけボロボロになったってかまわない。ライオネルが好きだから、側にいられるだけで幸せだから、たとえ一生涯嫌いだと言われ続けたって、その結果心がズタズタになったって、覚悟の上だ。どんなに傷ついても、ライオネルの側にいられない方が苦しいから、だからいい。

 けれどライオネルは違う。

「ねえ、エイミー。これはいいきっかけだと思うわ。今日のことを理由に、身の危険を理由に、殿下に婚約の解消を持ち掛けてもいいんじゃないかしら?」

「……でも」

「殿下があんたを愛していて、大切にしているならわたしもこんなことは言わないわ。でも――違うでしょう? 何も返してくれない男のために、あんたはこれ以上傷つき続けるの?」

「…………」

 シンシアの言うことはわかる。

 わかるけれど、エイミーは頷けなかった。

 否、頷きたくなかった。

 黙り込んだままのエイミーに、シンシアはため息交じりに続けた。

「このままエスカレートして、殿下を巻き込むようなことになっても知らないわよ」

 ドクンと、エイミーの心臓が、嫌な音を立てた。

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