王子様を落とし穴に落としたら婚約者になりました ~迷惑がられているみたいですが、私あきらめませんから!~
 ライオネルはエイミーのことが嫌い。

 ライオネル本人が言ったことではないか。

 だからライオネルにとってはエイミーからの別れ話は歓迎されるべきことのはずである。

 心の中でそう返しながら、エイミーはけれどそれを口にすることはできなかった。

 ライオネルに向かってそんなことを言って、それをライオネルに肯定されたら、エイミーは泣いてしまうかもしれなかったから。

 ライオネルに真顔で「嫌いだ」と言われるのはもう充分だ。

 もう充分。これ以上聞きたくない。

「お前が急に別れたいなんて言い出すのはおかしい。何かあったんだろう? 何があった。言え」

「な……なにもないですよ」

「嘘をつけ」

「嘘じゃないです」

「じゃあ俺の目を見てもう一度言ってみろ」

「……っ」

 エイミーはきゅっと唇を噛んで、そろそろと顔を上げてライオネルの綺麗な紫色の目を見る。

 まっすぐに見下ろされる綺麗な目。エイミーはライオネルのこの目が大好きだ。

 眉も、鼻も、口も、顔も声も。ぶっきらぼうなところも、怒りっぽいところも、でも本当はとても優しいところも、全部大好き。

 エイミーはこくりと唾を飲んでから、ゆっくりと口を開く。

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