王子様を落とし穴に落としたら婚約者になりました ~迷惑がられているみたいですが、私あきらめませんから!~
「そ、そんなのおかしいです! だって、だって――だってずっと、殿下はわたしが嫌いだったじゃないですか!」

 言ってから、エイミーはハッとした。

 言いたくなかったのに。口にしたくなかったのに。

 ライオネルの答えが聞きたくなくて、エイミーは自分の耳を両手で塞ぐ。

 耳を塞いで背名を丸めるようにして縮こまるエイミーに、ライオネルはあきれ顔を浮かべて、エイミーの両手首をつかんだ。

「聞け」

 そう言って、無理やりエイミーの手を引きはがす。

「や、やだ」

「いいから聞け」

「やだ!」

 駄々っ子のように首を横に振っていると、もう一度嘆息したライオネルが、エイミーをグイッと引き寄せた。

 膝の上に置いていた弁当箱が転がり落ちて、屋上の床の上に中身をまき散らす。

 ぎゅっと抱きしめられて、エイミーはライオネルの胸の中で大きく目を見開いた。

「一度しか言わない」

 ライオネルが、エイミーの耳元でささやく。

 その心地のいい低い声と、それから熱い吐息に、エイミーはふるりと震えた。

 ライオネルがエイミーのふわふわな金髪をゆっくりと撫でて、ちょっぴりかすれた声で告げる。

「お前が好きだ。いつの間にか好きになっていた。だから――別れない」

 エイミーは大きく息を吸い込んで、それから呼吸の仕方を忘れたように、そのままぴたりと息を止めて――気絶した。



< 181 / 233 >

この作品をシェア

pagetop