王子様を落とし穴に落としたら婚約者になりました ~迷惑がられているみたいですが、私あきらめませんから!~
 ライオネルは腕を組むと、「ふむ」と頷いてから言った。

「そこまでわかっていて、どうしてお前は犯人捜しをしなかったんだ?」

「え? それは、今のところわたし以外に実害がなかったのでまだいいかなって」

 ライオネルが巻き込まれたら別だが、エイミーが離れればライオネルまで巻き込まれないかもしれないと思っていたし、もし巻き込まれそうな気配が出てきた段階で対策を取ればいいと思っていた。

 一応すぐに動けるように密かに情報収集はしていたが、大々的に動くと犯人を刺激してしまうかと思い、個人で動ける範囲内での捜査のみなので、犯人を特定するまでには至っていない。

(というか、個人か団体か……それもまだはっきりしていないから、不用意に先生たち聞き込みもできないし)

 シンシアが先生たちに報告に行ったときも、ちょっとまずいとは思ったが、言ってしまったから仕方がないとあきらめ、その後の教師たちの動きも一応見張ってはいた。犯人が教師たちの中にいないとも限らなかったからだ。教師とはいえ、貴族だからである。目的が王位継承に関する何かなら、貴族である教師も疑ってかかるべきだからだ。どこでどうつながっているかわからないからである。

「調べられる範囲にはなりますが、わたしやお父様に敵対する派閥、それから王位継承問題で敵対もしくは敵対しそうな派閥、それから直近で何かしらの罪を犯して処罰された貴族の逆恨みなど、このあたりについてはリスト化して、いつでも動けるようにはしてあるんですが……」

 何もしなかったわけじゃないよと言い訳すると、ライオネルはがしがしと頭をかいた。

「情報収集だけで自分の身の安全を確保していなかったのなら何もしていないのと同じだ! 大怪我をしたらどうするつもりだったんだ!」

「た、たぶん大丈夫かなって……」

「たぶん⁉」

 これ以上言えば怒り出しそうなので言わないが、エイミーが犯人捜しを急がなかったのはもう一つ理由がある。

 エイミーが何もしないと油断させておいた方が、犯人が団体だった場合、捕まえるのに有利になるからだ。トカゲのしっぽ切りのように末端を切られて大元に逃げられては、いずれ方法を変えてまた狙ってくるだろう。ゆえに大元まで捕まえるために、相手を油断させておきたいという気持ちもあったのだ。

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