王子様を落とし穴に落としたら婚約者になりました ~迷惑がられているみたいですが、私あきらめませんから!~
 それから、ライオネルとエイミーは、パトリシアが犯人ではないかという仮説をもとに調べていた。もちろん違う場合もあるので、二年三組の他の生徒たちへの監視は怠らなかったが、音楽祭の今日までに、パトリシアが犯人だという証拠はすべて上がっていたのである。

 何故ならその間に二回ほどエイミーの頭上からものが降ってきたが、一回目は手芸部の部室から持ち出された裁断用のはさみで、二回目は工芸部が使っているのこぎりだった。どちらもその前日の放課後もしくは早朝に、パトリシアが各部室を訪れている。

 しかし解せなかったのは、パトリシアがその後も音楽室を訪れ続けていたことだった。

 エイミーの頭上から降ってきたものに、音楽室から持ち出されたものはない一つない。

 だからエイミーは、パトリシアの狙いがほかにあるのではないかと推測を立てた。
そして、パトリシアが音楽室を訪れる時間帯にはピアノしかないこと、そして今日の音楽祭の発表順の最初がライオネルのクラスだったことから、狙いはライオネルで、ピアノに何か細工をしたのではないかと推理した。

(まさかあの人形に、防御魔術まで組み込んでいたとはね)

 あの陶器人形をエイミーから渡された時は心底驚いたし嫌だったが、どうやらエイミーがあの人形をこねくり回していたのは、あの奇妙な人形に防御魔術を施していたからだったらしい。

 肌身離さず持っていろと言うから嫌がらせかと思ったが、違ったのだ。

 おかげで、ピアノに仕掛けられた針がライオネルの指に刺さった瞬間、防御魔術が発動して、ライオネルを守った陶器人形が砕けた。エイミーの手によって、正しく「魔除け」の人形にされた陶器人形は、ライオネルの命を救ったわけだ。まあ、仕掛けられていた毒針の毒が、ライオネルを死に至らしめるレベルのものだったかどうかまではわからないが。

 そうしてエイミーの計画通りに釣り上げられたパトリシアは、すっかり青ざめた顔で震えている。

 誤算だったのは、パトリシアに「殿下は辟易なさって」だの「婚約を解消したいとお望み」だの「殿下は嫌がっておいでなのです」だの言われたエイミーがキレて脱線をはじめたことだ。

 エイミーが本題をすっかり忘れて「両想いだ」としつこく繰り返しはじめたときはどうしようかと思った。

 そして今もまだ腹を立てているエイミーは、まるで「両想い」をアピールするかのように、不貞腐れた顔でライオネルの腕にしがみついている。

 両想いであろうとなかろうと、ライオネルとエイミーが婚約関係にある事実は変わらないのに、エイミーにとってはそこが一番重要なポイントらしい。

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