王子様を落とし穴に落としたら婚約者になりました ~迷惑がられているみたいですが、私あきらめませんから!~
「先生たちも気を付けてくれるらしいから、ひとまず安心かしらね。……ってエイミー、どうしたの?」

 シンシアが先生たちを呼んできて、それからパンジーを近くの花壇に植えなおした後で、エイミーは手を洗うために手洗い場へ向かっていた。

 中庭に駆けつけてきた先生たちが授業に遅れることは伝えておいてやるからまず手を洗って来いと言ったからである。

 爪の中に入った土を丁寧に石鹼で洗い流していると、シンシアがじっとエイミーの顔を見てそんなことを言う。

「なにが?」

「何がって元気がないみたいだけど……。まさか怪我でもした?」

「怪我なんてしていないわ。わたしはいつも通りよ!」

 エイミーは顔を上げてにこりと笑った。

 そう、いつも通りだ。――ライオネルに「嫌い」だと言われることなんて珍しくない。だからいつも通りなのだ。何も変わらない。変わらないはずだ。

(殿下がわたしを嫌いなことなんて知っているもの。……だからいつもと一緒よ)

 それなのに何故、こんなにも胸が痛いのだろう。

 ライオネルがエイミーを嫌いなのは十一年前から変わらない。わかっているのに。

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