王子様を落とし穴に落としたら婚約者になりました ~迷惑がられているみたいですが、私あきらめませんから!~
 犯人の目的はよくわからないが、ずいぶんと発想の豊かな人だと思うのだ。だって一度として同じものが降ってきたためしがないのである。きっと、毎日次は何を落とそうかと考えているに違いない。愉快な犯人だ。

 濡れた雑巾をこのままにして置くと邪魔になるだろうからとエイミーが拾い上げようとすると、その前に慌てたように教師の一人がかけてきた。

「エイミー・カニング嬢! 片づけは先生がしますから結構ですよ!」

 どうやらシンシアが先生に告げ口したせいで、エイミーの身の回りに注意を払ってくれているらしい。

(こうなるから教えたくなかったのよねー。先生たちの仕事を増やしちゃったわ)

 エイミーは生徒だが、王太子の婚約者だ。それでなくとも教師たちはエイミーに何かあってはいけないとやたらと気を遣うのに、頻繁に空から妙なものが降ってくるとわかれば彼らが大慌てをするのは目に見えていた。だから嫌だったのだ。

 ここでエイミーが意地になって片づけをしようとすると逆に迷惑をかけるだろう。

 エイミーは「ありがとうございます」と素直に礼を言って、下駄箱で靴を履き替えた。

 そして、自分の教室に入る前に隣の教室を確認してみる。残念ながらライオネルはまだ登校していないようだ。

 エイミーはがっかりして自分の教室に入ると、すでに到着していたシンシアが「今日は大丈夫だった?」と訊ねてきた。



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