コーヒーにはお砂糖をひとつ、紅茶にはミルク —別れた夫とお仕事です—
「25歳で結婚なんて世間ではごく普通だし、もちろん仕事は続けて欲しい。深山家に入ったからって実家に住む必要もないし、わからないことは俺が教えるよ。」

「…………え…と…」
蒼士にみつめられ、水惟は赤くなり目を逸らせなくなった。

「それに、結婚したら会社でも隠さなくて良くなるよ。もっと一緒にいられる。俺は水惟とずっと一緒にいたい。今っていう意味でも、これから先の人生って意味でも。」
「………」

「水惟が想像してたより、少し時期が早くなっただけだよ。」
「………」

水惟は言葉を発せずにいる。

「…俺は来年には30歳になるし、そしたら仕事関係の縁談の話も増えると思う。」

「え…」
水惟の顔が不安そうに青ざめる。

「他の人と結婚してもいい?」
蒼士の意地悪な質問に、水惟は首を振った。

「そんなのやだ…」
「だろ?だから結婚しようよ水惟。ね?」

水惟は少しだけ考えるようにゆっくりと頷いた。
「…はい」

蒼士は水惟の顔を自分の方に向かせると優しく触れるようにキスをした。

「順番がめちゃくちゃになっちゃったけど…」
そう言って蒼士はポケットから小さな箱を取り出すと、フタを開け、指輪を水惟の左手の薬指にはめた。

「大好きだよ、水惟。ずっと一緒にいよう。」
水惟を優しく抱きしめる。

「うん…わたしも…私も、大好き。」
水惟は蒼士の背中に回した手に、ギュッと力を込めた。

< 104 / 214 >

この作品をシェア

pagetop