コーヒーにはお砂糖をひとつ、紅茶にはミルク —別れた夫とお仕事です—
見覚えがあるのは当然だった。
ここは4年前まで水惟が毎日寝起きをしていた寝室だ。
広々とした部屋の窓の外にはマンションの高層階からの景色が広がっている。

(なんで!?)

水惟は窓と反対の方に視線をやってギクッとした。
「っわ!?」
思わず小さな声を漏らしてしまった。

ベッドの脇に置かれた椅子には、蒼士が座ったまま軽く腕を組むような格好で寝ている。
水惟は慌てて飛び起きようとしたが、起きるべきか、静かに寝ているべきか…など、行動を決められずにわたわたとしてしまった。

「あ…起きたか。体調大丈夫?」
水惟の動く気配を感じたのか、蒼士が目を覚ました。

「………なんで…」

この状況について、疑問のひと言を口にするのが精一杯だった。

「冴子さんに呼び出されて店に行ったら水惟が寝てたから。」
「そう…なんだ…」
(冴子さん…)

「…え、でも、だからって…なんでこの家に連れてきたの…」
「………」
蒼士は少し迷うように間を置いた。

「…水惟に、確認したいことがある。」
「………」

「何か、思い出したんじゃないのか?」

水惟は蒼士の方を見たまま、口をキュッと(つぐ)んだ。
「………」

——— ふぅ…
蒼士は小さく溜息を()いた。

「居酒屋で、久しぶりに名前で呼ばれた。」
「………」

「寝てる間も何回か俺の名前とか、深端時代の知ってる名前が出てきた。だから—」
「……つき…」
「え…」


「嘘つき」
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