コーヒーにはお砂糖をひとつ、紅茶にはミルク —別れた夫とお仕事です—
「4年前は夫婦でしたけど最低な別れ方でしたよね。だからもう、思い出したくないんです。仕事はちゃんとやりますから、名前で呼んだり…余計なことはやめて下さい。」
水惟の目は怒りを孕んで潤んでいる。

蒼士は考えるようにしばらく間を置いた。

「……そっか……そうだな、俺が悪かった。」
残念そうに言った。

「過去のいざこざは今回の仕事には持ち込まないようにしようって言いたかったんだ。いろいろ辛い思いをさせてしまったのはわかってるから、不快なことは遠慮なく言ってくれ。」
そう言って、蒼士は握手の手を出した。

「…和解の意味ですか?だったらそれが不快です。」

「ごめん。どちらかというと“あらためてよろしく”って意味だけど、気持ちだけにしとく。」
蒼士は手を引っ込めると、どこか申し訳なさそうな表情をした。

蒼士の表情に水惟の心臓が複雑な音を奏でる。

(いまさらこの人の表情にどうして反応するの…?苛立つだけでしょ…)
水惟は咄嗟に4年前のことを思い出してしまい、泣きそうになった。

「…すみません。よく考えたらそちらがお客様なのに失礼でした。先ほども言いましたけど、仕事はちゃんとやりますので。今日はこれで失礼します。」
感情を押し殺したように俯いて言うと、そのままペコリと頭を下げて水惟は部屋を出て行った。

「………」

———はぁっ…

部屋に残された蒼士は悲しげに大きな溜息を()いた。
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