コーヒーにはお砂糖をひとつ、紅茶にはミルク —別れた夫とお仕事です—

水惟の態度

「今回の新卒って洸さんから見てどうですか?」

艶のあるダークブラウンの木のカウンターがクラシカルな雰囲気の、照明の暗いバーで蒼士が隣に座った洸に聞いた。

「お、何?配属決め?」
「俺にそんな権限無いですよ。」
蒼士は笑って言った。

8歳上で深端のエースADである洸は、蒼士に気を遣わずに本音で話してくれる貴重な存在だ。

「一人、深端っぽくない子がいるなと思って。」
「ああ、藤村 水惟。」
洸も同じことを感じていたようだ。

「不器用そうな感じだけど、よく受かったなって。」
「んー…たしかに不器用そうだよな。人付き合いは。」

「人付き合い“は”?」
「うん。あの子、デザインはすごいよ。採用の時に人事からADに作品集(ポートフォリオ)渡されるんだけどさ、俺と氷見ちゃんが二人とも二重丸つけたのは藤村さんだけ。」
洸はつまみのチーズを食べながら言った。

「へぇ、だから採用されたんだ。エース二人のお墨付き。」
「人事に“藤村さんはクリエイティブに”って配属希望出してるんだけど、希望通るか微妙なんだよな。」

「新人がクリエイティブに直で入るのは珍しいからね。」
「いないわけじゃないけどな。俺とか。」
洸は冗談まじりで得意げに言った。

「でも珍しいな、蒼士が新入社員に興味持つなんて。いつも新卒も中途も興味なさそうじゃん。」
「ん?うん、質問されて。」

「質問?」
「深山さんもやりたいことがあって深端に入ったんですか?って。」

「なんだそれ!蒼士にそんなこと聞くなんてすげーな。知らないのか?深山って。」
洸は笑って言った。

「知らなかったみたいですよ。」
(あぁ…だから俺の名前を頑張って覚えようとしてたのか…)
蒼士も思い出し笑いをするように言った。

「…正直、やりたいことなんてあんまり考えたことないなって思って。俺って空っぽだなって思っちゃったんですよね。」
「お前まだ26だろ?学生の頃から会社に関わってるからか、元がしっかりしすぎなんだよな。」
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