コーヒーにはお砂糖をひとつ、紅茶にはミルク —別れた夫とお仕事です—

変化

「藤村さん、この展覧会—」
「ごめんなさい、先週末観に行っちゃいました。」

「この個展—」
「観ちゃいました…すみません!」

「今やってる映画—」
「友達と約束しちゃってて…」

蒼士は誘いを断られたのをきっかけに、ムキになったように何度か水惟を展覧会や映画に誘おうとしたが、ことごとく断られてしまった。
(洸さんの言う通り自意識過剰?恥ず…)


「藤村さん、この展覧会はもう行っちゃった?」

また二人きりになったエレベーターでポスターを見ながら蒼士が言った。
(どうせ今回も…)

「えっと…行ってないです…それ、まだ始まってないですよね…」
「え?あ…」

ポスターに書かれた展覧会の開催期間は、その週末からだった。

「じゃあ、良かったら一緒にどう?」

「…あの…どうして…誘ってくださるんですか…?」
水惟は若干怪訝な表情(かお)で聞いた。

(どうして、か…たしかに、俺みたいな立場のヤツに急に声かけられたら怖かったかもな…)
蒼士は水惟の今までの態度になんとなく納得がいった。

「うーん…なんでかな。なんとなく、一緒に行ったらおもしろそうかなって。」
「…じゃあ、はい。ぜひ。」


「私、夜空の絵が好きでした!色合いがきれいで…」
展覧会後に食事に入った店で水惟がいつになく饒舌で、目をキラキラさせて話すので蒼士は思わず笑ってしまった。

「藤村さん、よくしゃべるんだね。」
「え…あ、えっと…感動しちゃって。」
水惟が照れくささと申し訳なさを合わせた顔で言った。

「それに…深山さんと来れて嬉しくて。」

そう言った水惟の無邪気な笑顔に蒼士の胸がキュンと締め付けられてしまったので、蒼士は自分の気持ちを自覚することになった。
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