コーヒーにはお砂糖をひとつ、紅茶にはミルク —別れた夫とお仕事です—

水惟の憂鬱

蒼士と結婚すると、水惟の生活は一変した。

まず、蒼士が暮らしていたタワーマンションに水惟が引っ越した。
水惟にとってはそれだけでも大きな環境の変化だった。

「再来週、出版社の謝恩パーティーがあるんだけど水惟も出席してもらえる?」
「うん。」

月に何度か深山家にパーティーの招待があり、蒼士が出席する場合には水惟も妻として同伴した。

「深山さん、ご結婚おめでとうございます。」
「ありがとうございます。」
親子ほど歳の違うゲストたちに祝福され、蒼士がお礼を言う。

「おきれいでお若い奥様ですね。」
「いえそんな…ありがとうございます。」
水惟もぎこちなくはあるが愛想よく応える努力をした。

「へーじゃあ奥様は深端のデザイナーさんなんですか?良いですねー!次期社長夫人なら良い環境で好きなようにデザインやり放題じゃないですか。」
「え…っと…」

パーティーの席では酒が入っていることもあり、不躾なことを言うゲストも少なくなかった。

「妻は優秀なデザイナーなので、私の力は必要ないみたいですよ。」
水惟が答えに困ると、蒼士が品の良い笑顔でフォローした。

「また変なこと言っちゃったかも…」
「そんなことないって。そのうち慣れるよ。」
パーティーから帰ると水惟はいつも反省し、蒼士が慰めた。


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