コーヒーにはお砂糖をひとつ、紅茶にはミルク —別れた夫とお仕事です—
「あれ?水惟…髪黒くしたんだ?」

ある土曜、美容院に出かけた水惟が茶色だった髪を黒くして帰ってきた。

「この前のパーティーで深山のお嫁さんなのに髪の色が品がないって言われちゃったから。黒の方が少し大人っぽく見えるし、これはこれで似合うでしょ?」
水惟は笑って言った。

「うん、似合ってるけど…いいの?うちの親は別にそんなこと気にしないと思うけど。」

蒼士の両親は水惟の素直なところをとても気に入っている。

「うん。受け応えが苦手な分、見た目くらいはちゃんとしたいから。」



「今日の食事会、退屈だったよな。」
深山家関連の会食の帰り道、水惟と手を繋いで歩きながら気遣うように蒼士が言った。

結婚以来、パーティーと同じくらい会食の機会も増えていた。
相手によっては話題が政治や経済の話で、水惟は相槌を打つくらいしかできないこともあった。

「ううん!話は難しかったけど勉強になったし、料理がすっごく美味しかったし。」
水惟は笑顔で答えた。

「あ、でも盛り付けが芸術的すぎてどう食べたらいいかわからない料理があったね。」
「ああ、あの店ってたまにああいう料理があって、偉そうな顔で難しい話をしてたおじさんが慌てるところが見られておもしろいよ。」
蒼士も笑って言った。

「私、パーティーも会食もまだまだ苦手だけど…帰りにこうやって蒼士とおしゃべりできるから好き…」
パーティーや会食へは車で行くことが多いが、水惟の希望で時々歩いて帰るようにしている。

水惟は繋いだ手にそっと力を込めた。
蒼士も応えるようにきゅっと力を入れた。

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