コーヒーにはお砂糖をひとつ、紅茶にはミルク —別れた夫とお仕事です—
言えない本音

飲み込んだ気持ち

「あの頃は、結婚したばかりで…その先にいくらでも水惟との時間があると思ってた。」
「………」

蒼士の語る過去が水惟の記憶の足りない部分を呼び覚まし、重なっていく。

「だから仕事を頑張ればそれでいいって本気で思ってたんだ。」

水惟の中でも徐々に当時のことがハッキリとしていく。

***


「…また出張…?」
ある夜、水惟が蒼士に聞いた。

ここのところ蒼士は立て続けに国内外の出張に飛び回り、その後処理もあるのか毎日残業も続いていた。
この夜もまた、蒼士がスーツケースに出張の荷物を準備していた。

「うん。今回は国内だからすぐ戻るよ。」
「………」
水惟はしょんぼりとした様子で肩を落とした。

「さみしい?」
蒼士の問いに、水惟は素直に頷いた。

「かわいいな。」
そう言って水惟を抱きしめた蒼士の胸に水惟は顔をぎゅっと埋めるように押しつけ、背中に回した手に力を込めた。

「帰ってきたら…」
「ん?」

「いちごパフェ、食べに行きたい」

顔を埋めたままの水惟に蒼士はクスッと笑って頭を撫でた。
「いいよ。パフェでもケーキでも食べに行こう。」

そのままの姿勢で頷いた水惟の目には、うっすら涙が滲んでいた。
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