コーヒーにはお砂糖をひとつ、紅茶にはミルク —別れた夫とお仕事です—
「…どうでしょうか…」

水惟はもじもじと恥ずかしそうにしながら試着室から蒼士の前に出てきた。

「こういう色も形も自分では選ばないから…大人っぽくて…大丈夫かな…」

蒼士は一瞬見惚れたように言葉を失った後、嬉しそうに微笑んだ。

「今の黒い髪にもすごくよく似合ってる。きれい。」
蒼士の言葉に、水惟の頬が染まる。

「自分が選んだ服を着てもらえるって嬉しいな。独占してる感じがして。」

蒼士の言葉とともにそのドレスは水惟の一番のお気に入りになり、自分らしくないと思っていた黒い髪も少し好きになった。
その後のフルーツパーラーで、水惟はいちごパフェに目を輝かせた。


帰り道、蒼士があらたまって話し始めた。

「水惟、あのさ」
「ん?」

「最近俺の出張も多くて忙しいし、パーティーとか会食とか慣れない場所についてきてもらうことも多くて、水惟に大変な思いばっかりさせてるよな。」
「………」
水惟は首を横に振った。

「美味しいものいっぱい食べれるし…今日もドレス買ってもらっちゃったし。…それに、大変なのは出張に行ってる蒼士でしょ?」
そう言った水惟の笑顔は明らかに寂しそうだった。

蒼士は水惟を包み込むように抱きしめた。

「今、仕事が大事な時なんだ。今頑張ったら、将来的に水惟ともっと一緒にいられるし、なんでも買ってやれるし、やりたい事もなんでもやらせてやれるようになるから。」
「そんなの…」

「そんなのいらない、今一緒にいたい」と言いたくても、子どものわがままのようで水惟には言えなかった。


「ありがとう、蒼士。大好き。」
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