コーヒーにはお砂糖をひとつ、紅茶にはミルク —別れた夫とお仕事です—

風邪

「ちょっとみんな集まって。」
氷見がクリエイティブチームのメンバーをミーティングルームに招集した。

輝星堂(きせいどう)の新しいコスメシリーズの広告の話があって、今回はまず企画の社内コンペからやることになりました。だからできるだけみんなに参加して欲しいの。」

“輝星堂”と聞いて、デザイナーたちの目の色が変わる。
化粧品大手のキャンペーンは名を上げる絶好の機会だ。
水惟は洸のアシスタントとして何度か輝星堂の広告案件には関わったことがあり、よく褒めてもらえた得意分野だ。

「はい」
乾が手を挙げた。

「これって公平に審査されるんですか?社内コンペって人によっては超有利じゃないですか?」
それが暗に水惟のことを言っているのは、その場にいた全員がわかっていた。

———はぁ…

氷見はうんざりした表情で軽く溜息を()いてから話し始めた。

「プレゼン力も見たいから名前を隠して審査することはできないけど…営業部からは鷺沼(さぎぬま)部長と橋本部長が審査に出るし、社長は最終決定したものを確認するだけだから。私も審査側に回るけど誰かを贔屓するなんてことは絶対にしない。信用できないならそれまでだけどね。」

蒼士と、蒼士の父で水惟の義父である社長が審査に参加しないことが明言された。
それでも“深山 水惟”が贔屓されないという保証はどこにもない。

「だいたいね、この業界はコネなんて珍しくないの。それでも本当に良い企画は選ばれる。みんなそこを目指して欲しい。」
「はーい。」
乾は不貞腐れたような、つまらなそうな声色で返事をした。

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