コーヒーにはお砂糖をひとつ、紅茶にはミルク —別れた夫とお仕事です—

社内コンペ

翌日には水惟の熱は下がり、体調は快復していた。

「昨日はご迷惑をおかけしました。」
水惟は出社するとまず氷見に挨拶をした。

「ここのところ、根を詰め過ぎだったからね。たまには良い休息になったんじゃない?あんまり無理しないでね。」
氷見に言われ、水惟は申し訳なさそうに「はい」と頷いた。

「仕事のことは大体問題なく進行できてるはずだよ。乾が結構フォローしてくれてた。」
「乾さんが?」

「うん。ポスターのラフの提出とか、パンフの文字直しとか?水惟のパソコンちょっと使わせてもらったよ。なんだかんだ言って水惟はクリエイティブでの乾の初めての後輩だしね。」
「…ポスター…?」
「昨日提出しなきゃいけない案件だったみたいだけど?」

水惟が予定していた提出物のスケジュールにはポスターの提出予定は無かったが、急に〆切が早まるのはこの仕事ではよくあることだ。今回もそういうことなのだろうと、水惟はあまり気にしなかった。

「乾さん、昨日はご迷惑をおかけしてしまってすみませんでした。フォローありがとうございました。」
「ああ、いいのよ別に。体調は大丈夫?」
仕事の打ち合わせでないせいか、ここ最近の乾にしては珍しく機嫌の良さそうな表情をしている。

「はい、もう大丈夫です。ありがとうございます。それで、提出いただいたポスターってどの案件ですか?メールの履歴ではわからなくて…」
「え?あ、私氷見さんにポスターって言っちゃった?パンフの文字直しだよ。履歴にあるでしょ?」
「あ、そうだったんですか。」

水惟が納得したように言って自席に戻ると、乾はホッとしたように息をついてわずかに口角を上げた。

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