コーヒーにはお砂糖をひとつ、紅茶にはミルク —別れた夫とお仕事です—
『じゃあ次、乾 吉乃さん。お願いします。』

乾が発表用のスクリーンの前に立ってお辞儀をすると、乾はデータ投影用のPCの前に座り、自分のプレゼン資料を開いた。
乾の企画がスクリーンに映し出される。

「え…」
そこに映された文字とイメージスケッチを見て、水惟は思わず声を漏らした。


『私が提案するテーマは“モノクローム”です。』

マイク越しに乾の声が部屋に響く。


『こちらのコスメシリーズのメインターゲットは10代後半から20代の女性とのことですが、敢えてその層に馴染みの薄いモノクロームの映画をテーマに、ルージュやネイルの色を際立たせて—』

その声に反響するように、水惟の手が震える。

『チープな雰囲気のSF映画や、レトロな恋愛映画風のCMやポスターで—』

『SNSにも、モノクロームの写真や動画をメインにしたアカウントを開設します—』

『プロモーションの一環として、実際に商品以外の部分は白黒でメイクを施したモデルのファッションショーも—』

それは水惟が考えた企画と、細かいところまでほとんど同じだった。
途中から何を見て、聞いているのかよくわからなくなってしまった。
水惟が休んだ日、水惟のパソコンに入っていたプレゼンシートを盗み見られたのは明白だった。


乾の自信に満ち溢れたようなプレゼンが終わり、室内は拍手に包まれた。
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