コーヒーにはお砂糖をひとつ、紅茶にはミルク —別れた夫とお仕事です—
「ただいま。」
数日経って蒼士が出張から帰ってきた。

「おかえり」
水惟は精一杯の笑顔で迎えると、蒼士の食事の用意をした。

「あれ?水惟の分は?」
「…ごめん、お腹空いてたから先に食べちゃった」
申し訳なさそうに笑って嘘をついた。

「輝星堂のプレゼンどうだった?」
食事をしながら蒼士が聞いた。

「………」
「なんかあった?」

「えっと…うーん…失敗しちゃって。あんまり上手くプレゼンできなかった」
また苦笑いで嘘をついた。

「そっか…せっかく頑張ってたから、企画の内容で判断してもらえるといいね。」
蒼士の優しい言葉が、企画の提出すらできていない水惟には辛くて堪らない。
それでも水惟は、乾に企画をとられてしまったことを蒼士には言えなかった。


「今回は乾の企画が選ばれました。おめでとう。」
数日後、氷見からコンペの結果発表され、みんなが拍手をした。

「おもしろくなりそうな企画だったもんな〜」
「よく練られてたしねー!」

それは本来、水惟が浴びるはずの祝福だった。

「ありがとうございます〜!輝星堂の大きいプロジェクトって憧れだったので嬉しいです!」
乾は全く悪びれることなく水惟の功績を自分のものにした。

「私これから輝星堂さんと打ち合わせとか増えるから、その分のフォローよろしくね。」
乾が水惟に言った。

「…はい」
< 153 / 214 >

この作品をシェア

pagetop