コーヒーにはお砂糖をひとつ、紅茶にはミルク —別れた夫とお仕事です—
今度は氷見が蒼士を小会議室に呼び出していた。

「余計なお世話かもしれないけど…水惟はしばらく会社を休ませた方がいいかもしれない。」
「それは…コンペの件で、ですか?」
蒼士が聞くと、氷見は首を横に振った。

「これ見て。」
氷見はタブレットを差し出した。

「これ、ここ最近の水惟のデザインなんだけど…」
氷見はスワイプして次々にデザインを見せていく。

「………」
無言で見ていた蒼士の表情が曇る。

「深山くんならわかるでしょ?」

「…色…」
蒼士が口にした言葉に、氷見が頷く。

「水惟のデザインって、色がきれいなのが魅力の一つだったのに…ここ最近のものは、意図してないだろうなってところで色が暗く濁ってたり、おかしなバランスで色が入ってたり…前はこんなこと無かったのに。よく見ると文字もところどころバランスが悪くてデザイン的に気持ち悪いし…」

「最近ていうのは?」
「思い返すと噂が広まり始めた頃から不安定になり始めてたなって感じだけど、ここまで変わってしまったのはコンペの後からだね。」

「そうですか…」
蒼士は氷見にわからないように拳にグッと力を込めた。

「休めなんて言われたら、それ自体にショックを受けるかもしれないし…本人の意思を尊重して欲しいとは思うんだけど、ちょっと心配なんだよね。」

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