コーヒーにはお砂糖をひとつ、紅茶にはミルク —別れた夫とお仕事です—
———コンコン…

蒼士がドアをノックして部屋に入る。

「水惟、もう11時だよ。そろそろ寝た方がいいんじゃない?」
「もう少しだけ…」

そう言って振り返った水惟の肩越しに見えるパソコンの画面には、蒼士でもわかるくらいまとまりのないデザインレイアウトが表示されている。

「水惟、約束しただろ?無理しないって。」
「それは会社に行くときの約束だし…」

「違うってわかってるだろ?水惟がまた倒れたりしないようにって約束したんだから、家でも無理したらダメだよ。」
「でも…」
水惟は俯いた。

「休職中なんだから休んでいいんだよ。」
水惟は寝室に行くため、納得のいかない様子で渋々椅子から立ち上がった。

「…休職って…」
水惟がポツリと言った。

「休職っていつまで?いつになったら復帰できるの?」
蒼士の顔を見上げてまた不安げな顔で聞いた。

「…水惟がちゃんと休んで、またデザインができるようになるまでだよ。」
「でも、休んでたらもっと忘れてわからなくなっちゃう…」
水惟の眉が八の字を描き目が潤む。
蒼士はまた、落ち着かせるように抱きしめて頭を撫でた。

「…会社に行けないなら、デザインの学校とか行っちゃダメ…?お金は自分で出すから…」
「水惟…」
(なんでこんなに…追い詰められてるみたいに…)

「ダメだよ。休職はしっかり休む時間だから。」
「でも…それじゃあ蒼士に…」
水惟がポロっと溢すように言った。

「俺?俺に何?」
水惟はハッとした。

「なんでもない!もう寝るね。」

水惟は急いで寝室に移動し、ベッドに潜り込んだ。

(………)

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