コーヒーにはお砂糖をひとつ、紅茶にはミルク —別れた夫とお仕事です—

洸のプレゼン

蒼士の提案を断り、強がって家を出てから数日。

———ふぅ…

水惟はホテルの部屋でひとり、心細さと不安を感じていた。
住むところはすぐに見つけられそうだが、仕事を探すのが今の水惟にはとても難しいことだった。
デザイナーの職を探せば、深端グラフィックスの第一線で活躍してきた水惟ならすぐに仕事は見つかるが、問題は就職した後だ。
デザインの本や参考になりそうなWEBサイトを見て勉強し直さなければいけないような現在の状態では、恐らく仕事としてやっていくのは難しい。
デザイン以外の仕事となると、他人より不器用な性格の水惟では転職活動でも自己PRに苦労するのが目に見えている。

———プルル…
水惟のスマホが鳴った。

「はい」
『お、水惟?久しぶり。』
声の主は洸だった。
洸の穏やかで優しい声が懐かしい。

「洸さん…お久しぶりです。」
『…元気か?』
「………」
洸の質問に、水惟は言葉を詰まらせる。

『ははは 悪かった。氷見ちゃんからいろいろ聞いてるよ。』
洸は苦笑いしているのがわかる声で言った。
“いろいろ”という濁した言い方で、離婚のことも把握されているのがうかがえた。

「ごめんなさい洸さん…」
『ん?』
「せっかくお祝いしてもらったのに…」
洸と蛍に結婚祝いの食事会をひらいてもらってから、まだ一年も経っていない。

『そんなことで謝らなくていいよ。あの時はあの時、今は今だろ?夫婦もいろいろだよ。』
「………」

『って、そんな話がしたいわけじゃなくてさ』
洸は気を取り直すように、電話口で咳払いをした。

『あのさ水惟、リバースデザインに入ってくれないか?』

「え…」
『深端、辞めたんだろ?』

「…はい…」
『だったらリバース(うち)に来てもらいたいなと思ってさ。』
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