コーヒーにはお砂糖をひとつ、紅茶にはミルク —別れた夫とお仕事です—
「水惟のやりたいことって…?前に言ってたカフェとかホテル?」

水惟は首を横に振った。

「それもやってみたいけど…それは深端に入ってから思ったことだから。」

「じゃあ…どこかの企業広告?」

また首を横に振った。

「誰かと仕事がしたいとか?」

「………」
水惟は考えるように沈黙した。

「それは…半分正解。」

「誰?洸さん?」

「洸さんと仕事できるのは光栄だけど…深端に入る時の夢じゃないの…氷見さんでもないよ。他のデザイナーでもADでもない。」

蒼士は眉間にシワを寄せ、真剣に考え始めた。

「わからない?」
「…全然。」

「忘れてるのは私じゃなくて、蒼士の方。」
「え?」
水惟は蒼士の右手を両手で包むように握った。

「思い出したの。私が深端を目指した理由は…蒼士(あなた)だから。」

「え?…俺…?」
全くピンと来ていない蒼士の表情に、水惟は眉を下げて笑う。

「私には、人生を変える出会いだったんだよ?」

そう言って、今度は水惟が昔のことを話し始めた。

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